古武術研究家の甲野善紀さんの本『薄氷の踏み方』を読むと、冒頭に大変興味深いことが書いてありました。
お金や名誉にしろ、スポーツなどの記録にしろ、その人が「得たい」と強く思っていたものを実際に得てしまうと、なぜか「人生の税金」がかかってくることが多いのだそうです。
甲野善紀さんは一時期このことを随分と調べたらしいのですが、ジャンルにかかわらず、成功した人は本当にそういう「人生の税金」を支払っているとのこと。
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「人生の税金」とは、本人が思わぬ難病にかかったり、家族に災難が降りかかったり、事故や事件が起こったりする「まさか」のことでもあります。
確か神田昌典さんが書いた本でも「成功者は地雷を踏む」との話が出ていたように思います。
家族のために建てた家なのに、完成した時には離婚して誰も住む人がいなくなっていたなんて話は、その地雷踏みの一例です。
「人生の税金」かどうかは知りませんが、濡れ手に粟まではいかなくても、ごく簡単に儲けたお金は、実にうまく損するようにできているというのは私の経験則でもあります。
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昔からずっと続いている豪商や庄屋は、ある程度の財産がたまると蔵開きをしたり、寺社に寄付したりして、あまり貯まりすぎないように調整していたそうです。
そういうことをしていると家業は何代も続いていくのですが、一代で成り上がった成り金などは財産を抱え込んでしまう。
そうすると放蕩息子が出て、見事にそれをパアにしてくれるという具合。
「熱力学のエントロピーの法則」からいっても自然なことのように思われると甲野さん。
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ある税理士さんは顧問先が順風満帆で営業している時、そろそろ「災難」が来るなと直感で分かるそうです。
自分の場合もそんな感じがしてきたので、事務所を移転してわざとおカネを使ったことがあるそうです。
長く繁栄している会社や人は、見えないところで徳を積んでいたり、神仏や世に寄付したりしているのは間違いがないようです。
陰ながら徳を積んだり、神仏に奉参したりしている人は、何かしら「守られている」感じがします。
こういったことは頭の良さや勤勉さの何百倍も大切なことなのに、気が付いている人はごく僅か。
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私は商売や金儲けの下手さ加減に自分でほとほとイヤになっているのですが、先ほどの「エントロピー」対策として考えた場合、案外いい対処方法を取っているのではないかと、自信を持ちました。
なぜなら、なかなかエントロピーに達しないからです。
今回の欧米の経済危機を見ても「山高ければ谷深し」そのものですが、あの飛ぶ鳥を落とすバブルがなければ、これほど苦しむこともなかったわけです。
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日本は一足先にバブル崩壊を経験することにより、アメリカの嫉妬を回避し、今回のキズを浅くしました。
ここに天の意図を感じるのは私だけでしょうか。
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私の友人のTさんは以前に「会社の売り上げが目標に達したら、年末に社内旅行でタイのプーケットに行こう!」と宣言。
しかし目標に達せずに旅行はキャンセル。
でもなんと、最初に予定していたドンピシャリの日と場所に、例の大津波がやってきたのでした。
もし行っていたら、命も会社もなくなっていたはずです。
売上が「上がる」のと「上がらない」のとでは、人間心では「上がる」方がいいに決まっています。
でもこの場合は上がらなくて本当によかったのです。
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人間の小さな器から見れば「不幸」だったり「災難」だったりすることでも、そこには深い天の意図が隠されているのかもしれません。
自分は頭が悪くてそれに気がつかないかもしれないけれど、自分が出来ることは流れに逆らわず「自然体」で行くこと。
体の力を抜いて、自分を無にして、神様の力をお借りすればいいだけ。
そう思えば気が楽になりませんか?