悪役に徹することができる政治家

今までヨーロッパに行って、治安が悪いと思ったことは一度もありません。
が、ここ1年ほどで随分印象が変わってしまいました。
パリでも、ニースでも、ミュンヘンでも、ビュルツブルグでも、アンスバッハでも、急にテロや難民による事件が勃発しています。

以前、ギリシャ経済危機があった時に(今も危機だとは思いますが)、ギリシャの英字新聞のネット版を読んでいました。
日本の新聞では“ほとんど”情報が入ってこなかったからです。
ギリシャの左翼政権とEUとの交渉が、下手な小説よりも緊迫したストーリーで、一体どうなっていくのかハラハラドキドキでした。

ギリシャのネット英字新聞も連日連夜その交渉を報道していたのですが、EUとの一応の解決のあと、堰(せき)を切って出てきた記事が小型船による難民流入問題でした。
私はそれらの記事を見て、これはEUにとって大変な問題になると直感しました。

最初、メルケル独首相を始め、EUの首脳は難民拒否の姿勢だったのですが、5歳の難民の男の子が水際で亡くなった写真が各新聞に載ったのを機に、難民受け入れの方向に変わっていきました。
これが今では大きな禍根を残す結果となりました。

ヒューマニズム的に見て、一見正統性のある「難民救済」が今や欧州社会に取り返しのつかない治安悪化をもたらしています。
政治家にはどんなに悪役になろうとも、守らなければいけない一線があることが、この問題でハッキリ分かりました。

もっと言えば「中東の春」などと持ち上げ、民主化を支持していたのは欧米社会のはずです。
強権国家での微妙なバランスの上で成り立っていた治安が、独裁者がいなくなった途端、その国に住めないぐらいひどく悪化しました。

シリアのアサド大統領を独裁者だと叩いている間に、難民は増え、残酷な「イスラム国」が力をつけてきました。
本当に一体何が正義かよく分からなくなってきました。
結果、あれだけ治安の良かったドイツでも社会の秩序が乱れてきてしまったのです。

今から振り返れば、どんなにマスコミから非難を受けようと「難民阻止」で押し通せばよかったのです。
日本だって、隣国の難民が押し寄せるといったシナリオが否定できません。
そんな時に国家百年の大計を考えて行動できる首相がいるかどうかで、民族の興廃が決まると言っても大袈裟ではないと思うのです。