『つばさよ、つばさ』(浅田次郎・小学館・1,300円)

私はけっこう本をたくさん読むのですが、フィクションは読めないのです。
ノン・フィクションのみ。
浅田次郎さんの小説も、実は1冊も読んでいません。
でもこれは旅の本だから読みました。
旅の本は書き手の筆力がモロに出ます。
特別な冒険旅行以外は、誰でもふつうに飛行機に乗り、ふつうにホテルに泊まるわけです。
そんな中で、人に読んでもらえる文章を書いていくのは大変です。

司馬遼太郎などは旅そのものというより、旅に触発されて司馬遼太郎の中で熟成されている知識や考えが、文章へと競い合って出てくるという感じです。
五木寛之はもうすこし感覚が優先するような旅行記(例えば仏教の旅シリーズ)ではないかと思います。
椎名誠は肩の力を抜いて楽しめる旅行記
毎回同じようなことをしているのに、それが次々と可笑(おか)しい話となって本になるのは、スゴイことだと思います。

浅田次郎はユーモアたっぷりに、人柄のよさが文章にあふれ、イヤミが全然ありません。
浅田次郎は1日1冊の読書量とのことなので、作家としては随分少ないほうだと思います。
しかし文章は面白い。
「1年のうち3分の1は旅をする」旅行力に負うところが大きいのだと思います。

旅行作家を目指すのもいいかもしれないと思えてきました。
私は行く前に徹底的にその地を調べていく司馬遼太郎タイプ。
ごく普通の海外旅行だって、事前にどれだけ勉強していくかが、その旅の深さを決定づけます。
ましてや本にする旅行記なら尚更(なおさら)です。

週刊住宅新聞」に毎週600字のコラムを書いています。
たまたま上海旅行をする機会があり、そのことを書こうと思っていたのですが、事前に上海に関する10数冊の本を読んだら、行く前に3回分のコラムが書けてしまったことがあります。
“shanghai”(上海)という単語には「酒、麻薬などで意識を失わせて船に連れ込んで水夫にする」という動詞の意味があると知ったのもその時です。