身につまされる話

渡部昇一先生のご子息に、チェロ奏者の渡部玄一さんがおられます。

父である渡部昇一先生のことを書いた『明朗であれ』という本が出版されたので、さっそく読んでみました。

息子として父親を心から尊敬していることがよく分かり、実に幸せなファミリーで、もうそれだけで人生の成功者と言っていいのではないでしょうか。

その中で渡部昇一先生のこととは関係がない文章にハッとさせられました。

「ある時、駅ナカのカフェバーに1杯飲むために入った。

ビールを飲みながら、ぼんやりとツマミが来るのを待っていたが、混んでいるのでなかなか来ない。

 

すぐ隣の席に、自分が注文したのと同じものが出された。

隣の2人組は楽しそうに盛り上がっていて、そのツマミにもすぐ手を出した。

 

ウェイターが引き返してきて『あっ!』という顔をしている。

『間違えたのじゃないの?』とウェイターに言うと『すみません、すぐにお持ちします』と引っ込んだ。

 

手持ちのビールはもう半分以上なくなっている。

ウェイターにも隣の客にも腹が立った。

 

その時、ふと鏡に映った自分の顔に気がついた。

不機嫌で、敵意に満ちていて、卑しく、何という見にくい顔だろうかと思った。

 

背中に冷水を浴びせられたようにゾッとした。

50年近く生きてきて、それなりに何かを成し遂げたような気になって、時には先生と呼ばれたりするくせに、たかが酒のツマミを間違えられただけでこんなツラをさらしている。

 

いったい自分は何をしてきたのだ。

ああ、今までやってきたことは何もかも無駄だ。」