アメリカの底力

「古き良きアメリカ」という言葉があります。
第2次世界大戦後の自由と繁栄を謳歌した時のアメリカです。
そんな時代に渡部昇一先生はアメリカの大学で客員教授として過しました。
当時は教授も学生も授業に自動車で乗り付け、しかもカギもかけずに置いておく。
でも車はちっとも盗まれなかったそうです。

ところがベトナム戦争を経て、アメリカは様変わりしてしまったとのこと。
ベトナムでの敗北が、アメリカ人の気持ちを随分と荒(すさ)ませてしまったのです。
1年後日本に戻った渡部昇一先生のもとに「今のアメリカは、もう君がいた時のアメリカではありません」との手紙をアメリカ人の友人からもらったそうです。

アメリカは世界一の軍事大国ですが、イラクアフガニスタンでは苦戦している印象を受けます。
世界一の軍事力を持ってしても、なかなか一国を抑え切れるものではないのですね。
下手すると、もたもたしている間に、アメリカの国内世論が敵にまわり出す。
ベトナム戦争でもアメリカ政府は、軍事的な敵と世論との、両方と闘わなければならなかったので大変でした。

アメリカが世界一の産業は何でしょうか?
農業、航空機産業、IT産業、そして金融といったところでしょうか。
軍事産業も群を抜いていて、インターネットもカーナビも、元はと言えばアメリカの軍事技術から生まれたものなのです。
こういうありがたいこともあるのですが、アメリカは産軍共同依存体制の根が深く、戦争をしていかないと国が持たないようなところもあるのです。
例えば1929年の大恐慌に対しては、いろいろと公共事業などの手を打ったわけですが、結局のところ第2次世界大戦を持ってして、やっと経済的解決が図れたわけです。
戦争は究極の「有効需要の創出」でもあるのです。

サブプライム問題に端を発する今回の世界金融危機で、一番ハッキリしたのが「金融工学」のいい加減さ。
難しい数式を駆使して導き出された金融商品も、結局はインチキでしかなかったわけです。
「なんだ、アメリカの金融も大したことがないじゃないか」が分かったのが一番良かったように思います。

私はアメリカの本当の底力を「全くの他人の子でも、平気で養子として育てる」ことに見出します。
これだけは日本人が逆立ちしても勝てません。
深いキリスト教精神に基づいた実践力に、素直に頭が下がります。
先日もアメリカの空港で、3歳ぐらいのかわいい黒人の男の子を見かけました。
その子を連れていたのが、40歳代の白人の夫婦。
養子として育てているのだと思います。
白人の子を養子としてもらうならともかく、明らかに人種も違うわけです。
本人たちも頓着していないし、まわりにもそのことを受け入れる土壌があるのです。

私の英会話の先生だった人も、日系なのですが、牧師だったアメリカ人に養子としてもらわれ、育ててもらったそうです。
懐(ふところ)の大きな社会です。
ここに私は、アメリカのいい意味でのスゴミを感じるのです。