言語オタク

自分が持つボキャブラリーを全部使って、話ができる相手というのは、そんなに多くはおりません。
そういう人たちとの会話は、年齢、性別を超えて、ひじょうに内容の濃いものとなります。
きのうのFさんとの会話がそうでした。
Fさんは中国からの留学生で、いま大学院の博士課程。
語学の研究、もう少し細かく言えば「英語の現在完了形」を研究しているとのこと。
中国語、英語、日本語が出来ます。
ついでにいえば、出身が紹興市なので、母語であるそこの方言も当然完璧。

標準中国語はマンダリンとも北京官話とも呼ばれますが、学校では全国統一でこの言葉を習うそうです。
テレビやラジオも。
ちょうど明治維新以降、日本国内で標準日本語を定め、この普及に尽力したようなものでしょう。
そうでないと、地方が違えば同じ中国人でも全く言葉が通じないとのこと。
発音だけ違って文法は同じなのだと思っていたら、文法も少し違うのだそうです。
また各地の方言には文字のないのも多く、漢字がそのまま当てはまらない場合もあるというのは初耳でした。

中国語には「過去形・現在形・未来形」の時制がないそうです。
ではどうして過去や未来を現すかというと、例えば「きのう」とか「3年後」とかの言葉で表現。
あるいは文脈から理解するとのこと。
「へえ〜」と不思議な気がしますが、時制は案外どこの言語でもあまり厳密でないような気がします。

日本語でも「あすは雨が降ります」なんて使いますが、これなども動詞は現在形。
ドイツ語もけっこう時制は緩(ゆる)やかで、未来のことを現在形で済ませてしまうことも少なくありません。
また過去形は文章を書くときのみに使用し、普段の会話では、過去には現在完了形を使います(と、文章で読んでも意味が“いまいち”ピンと来ないと思いますが)。
英語では未来を言うのにwillやmayを使ったりしますが、これだって話し手の意思や思いの度合いを言い表すだけで、未来そのものを言い表してはいないようにも思います。

外来語を中国語に訳すとき漢字を当てるわけですが、これが絶妙なものが多いので、よく感心させられます。
きのう聞いたものの中で、思わず膝を叩いたのが「ミニスカート」。
中国語ではスカートのことを「裙」と言うそうですが、「ミニスカート」は「迷你裙」。
「你」は「ニーハオ(こんにちは)」の「ニー」で「あなた」という意味。
「迷你(ミニ)裙」は「あなたを迷わすスカート」ということになります。
誰が考えたのかは分かりませんが、最高傑作の一つと言えるのではないでしょうか。

漢字を使って日本でこしらえられた言葉も多くあります。
例えば「共産党全国人民大会」などは、すべて日本から輸入された言葉。
「日本語」を使わずして演説もままならないわけです。

日本でも一部の漢字は略字ですが、中国はかなりの数の漢字を略してしまいました。
今の日本人が見ても、ちょっと意味が分からないものも多くあります。
漢字はその形自体に意味があるわけですから、これなど文化的な後退と言えるかもしれません。
韓国などは漢字を教育から撤廃してしまいました。
先祖からの連綿とした文化的つながりをも放棄したような感じで、実にもったいない限りです。
いま昔ながらの漢字を使っている国は台湾と香港。
立派だと思います。