累積経営・コストダウン・オーナー業

シュンペーターは資本主義の骨格を成すものとして「企業家精神」を挙げました。
企業家精神こそ資本主義を動かす原動力。
もし企業家精神が失われたならば、それは資本主義の堕落。

企業家精神とは、ひとことで言うとイノベーション
たとえば宅急便。
小倉昌男さんが宅急便を開発したがゆえに、間違いなく世の中は便利になりました。
宅急便の実績がなければ、郵政民営化は成し遂げられなかったに違いありません。

個人がインターネットで株の売買をし、朝から晩までパソコンに向かって、たとえ大儲けしたとしても、それが社会的に意義があるのかどうかは、はなはだ疑問なのです。
ファンドによる投機も、スケールが大きくなっただけで、社会的な意義から言えば、あまり価値のないことなのかもしれません。

あくどいとまで言わなくても、極めてアグレッシブな営業手法で、少なくとも同業者からは嫌われているのだけれど、あれよあれよという間に上場まで行ってしまう会社も少なくありません。
自分にその力がないので、犬の遠吠えのようになってしまうのですが、どうも腑が落ちないのです。
しかし考えてみれば、ヒットラーだって一国はおろか数カ国を手に入れたわけです。
能力的には申し分なし。
だが結局は国も自分も破滅に導きました。

私も若い頃は遮二無二(しゃにむに)前へ進むことばかり考えていました。
社員が増え、そこへバブル崩壊の波。
会社が生き延びたのは、バブルの時にはまだ32、3歳で、言ってみてもまだ信用がなかったからに尽きます。
バブル時が今の年齢なら、多少の実績もあるし信用もある。
従って復帰できないぐらいの痛手を負っていたに違いありません。

と、ここまで書いてウィナーズ倶楽部の関西例会に出ました。
その感想です。
今まで街の不動産店と言えば、売買仲介や賃貸管理がメインではなかったかと思います。
ところがウィナーズ倶楽部のメンバーは皆、新しい事業で累積経営を目指しているのです。
マンスリーマンションやコンテナ収納やコインパーキングなど、10年程前にはあまり見られなかったものばかりです。

ただしマンスリーマンションなどは供給過剰となり、一時と比べると、利幅がぐんと小さくなっているとのことです。
せっかく累積経営を目指してやってきたのに、また新しい事業を模索しなければならないと嘆いていました。
商品(事業)の寿命が短くなってきているのかもしれません。

メンバーの話を聞いていて、「累積経営」と「コストダウン」の重要性を再確認しました。
この2つのことが実践できている会社は、派手さはなくても、経営的に実に安定しているのです。
売買仲介は水物。
それが証拠に経営計画書を書くときでも、売買仲介の売上だけは、まったく予想がつかず、書きようがないのです。
先月は契約がすごく上がったとしても、今月はまたゼロからの出発。
これではまともな経営は出来ません。

もうひとつ賃貸管理については、どの会社も消極的に。
今までは一つでも管理物件を増やそうと懸命になっていたのに、最近はむしろ管理物件を減らす方向へ持っていっているようなのです。
管理業務自体が難しくなり、儲からなくなり、しかもストレスばかりがかかってくるからです。
少なくとも管理物件を選んでいかないと、何でもかんでも受けていては身が持ちません。

また強く感じたのが、不動産本来の業務である、オーナー業への回帰を、各社が目指しているということ。
わずかな管理料をもらってヘトヘトになるよりも、自分でリスクを背負ってオーナーになろうとする方向です。
「累積経営」・「小さな固定費」・「オーナー業」は、ここ数年、私自身がずっと考えてきたことでもあるので、意を強くしました。

ただ何によって「累積経営」をしていくかは、その会社によって違ってくるのは当然です。
ずばり得意技への特化。
「小さな固定費」は究極のところ、少数精鋭を意味するのだと思います。
また大きなコストダウン、小さなコストダウンと、さまざまな知恵の絞りどころでもあります。
本来の不動産業は「いかに不動産を活かすか」から出発していると思うのです。
仲介や管理のサービス業から、どっしりと構えたオーナー業へ。
勉強している街の不動産店の考えることは、みんな似てくるのかもしれません。