経営者の決断

「一つのことを諦めずにやっていくべし」という考えがあります。
失敗を重ねていても、もうひと粘りすれば、実は成功が待ち構えている。
そこでやめるか、やめないかが天地の差となる。

しかし会社倒産の場合は「頑張り切らないで、もっと早くやめておけば傷が深くならなくてよかったのに」というケースも少なくありません。
この場合は、早く諦める方が正解です。

続けるのか、やめるのかの判断はまことに難しい。
新しい事業を始め、それが思うように上手くいかない。
で、何年赤字を我慢すればいいのか?
私が経験したり、見聞きしたりする範囲では「見切り千両」がビジネスの世界では大変重要なようです。
アカンと思ったら、さっさと撤退。

キャノンはパソコン事業から撤退し、オフィス機器とカメラに集中。
もしいつまでもパソコン事業に固執していたら、今のような優良企業にはなっていなかったと思います。
松井証券は、営業マンによる営業形態を撤廃(つまり営業マンは全員辞めました)。
結果、ネット証券として「大化け」したわけです。
携帯電話のノキア
総合家電メーカーの道をかなぐり捨て携帯電話一本に特化。
結果、世界一の携帯電話メーカーとなりました。
こうしてみるとキーワードは「狭く深く」。

「やるか、やらないか」や「続けるか、やめるか」の決断は、人間の頭からは“なかなか”出てきません。
天の意向にそう判断が一番なのです。
心の中が我執でいっぱいになっていたのでは、インスピレーションは得られません。
人間の能力や努力は、恩寵にはけっして及ばないのです。

だから最も大切なのは「素直さ」。
あの経営の神様の松下幸之助だって「素直さ」を一番の素養にあげています。
経営者だけに限らないのですが、我執を取り去った素直な心がけが、すべての能力に優先するのだと思います。
才能や努力で“そこそこ”のところまではいきますが、なかなかその成功が続かない。
ホリエモンの例を見ても分かります。

セコムの創業者の飯田亮さんの『世界のどこにもない会社を創る!』(飯田亮・草思社・1,600円)を読みました。
いろいろと感ずるところはあったのですが、まず鍵山秀三郎先生と同じ年だということにビックリ。
飯田亮さんは団塊の世代のちょっと上ぐらいかと思っていました。

もうひとつ驚いたのは次の文章です。
「世間では飛び回っていると見られていますが、私は、考えている時間が長い。一日五〜六時間、何日にもわたって執務室にこもって考えます。その間、誰も寄せ付けません。外部からの連絡も遮断する。社内では『部屋ごもり』と呼ばれています」

これぐらい考え抜かないと、新しいビジネスモデルや会社の決断は出来ないのかもしれません。
「構想がまとまるのに早くて三ヶ月、一年ぐらいかかることもめずらしくありません。
はじめはもやもやとしているんです。それがだんだん形になってくる。そうするとデッサンを描く。何度も描き直す。発想は紙に落とさないとダメ」

「とにかくエネルギーのいる作業です。しかし、考えが煮詰まってから、さらにあと五分というように粘っていると、突然アイデアがまとまり、構想になります。その達成感は何物にも代えられません」
天の理念を、この世的に具現化するには、これぐらいのことをしないといけないのですね。